■MAGMIZER PROJECT 001
二〇一五年三月―。
いかずちの如き閃きが、多摩川河川敷のベンチで微睡む私の脳漿を垂直につらぬいた。
「AV男優をエネルギー源にしたヒーロー(ヒーロー、ヒーロー、ヒーロー…)」
双眸は瞬時に全開となり、五体が抑えようもなく打ち震え始めた。
ポケットから取り出したFRISKを啄ばみ、深呼吸を施す。
これは、途轍もない、百年、異や、千年に一度の「天啓」なのではないか。
私は天啓を得たところの私となっており、翻って天啓は、私に得られたことにより天啓としての天啓性をまさに全うしようとしているのではないか。
無人の多摩川河川敷野球場グラウンドをスニーカーで大きく旋回しながら、閃きを整える。
私の中で、全ての理が通っていく。
AV男優がエネルギー源になりうる理由。
彼らだけが持つ「特別な粒子」。
出生数が減り続ければ国は亡び、ホモ・サピエンスは滅びる。
惑星を支配する種の絶滅を引き起こそうとする「魔獣」。
Y染色体の破壊。
放射能。
神なる雄で、【神雄/カミオス】。
神雄がいなければ変身できず、神雄が離れれば、変身は解けてしまう。
AV男優を傍に置いてしか戦うことが出来ない、不思議なヒーロー。
剥き出しの弱点。
人類規模の戦いにAV男優が巻き込まれていくカオス的展開。
物語で何が争われ、主人公は、何故、戦うのか。
主人公に秘められた禁断の謎とは何か。
野球場グラウンドを一定速度で旋回する私によって舞い上がった土埃は衛星からの監視を首尾よく遮断完了していた。
と同時に、最終話ラストシーンのセリフまでが、一本の絵巻物の如く、見事な延性を保った状態で出来上がった。
主人公の名前は真熊烈。
変身名は『マグマイザー』。
AV男優だけが持つ「マグマ粒子」をエネルギー源とする、超人ヒーローの生誕である。
■MAGMIZER PROJECT 002
マグマイザーの構想をつかんだ私は、すぐさまそれを一気呵成にパワー・ポイントへと落とし込み、表紙に『マグマイザー SEASON-1 企画書』と大書すると
「出来た」
と声帯の限り絶叫した。
後方に弾け飛んだ事務イスが窓ガラスを突き破り庭池に落ちる音が聞こえた。
戦いは終わった。
勝った。
あとはこの書面をテレビ局なりハリウッドなりに渡せば、FINだ。
世の中は、今よりほんの少しだが善くなるだろう。
しかし落ち着いて考えてみれば、私にはテレビドラマのプロデューサーやハリウッド有力者等の知り合い、いないんですよね(´ー`)
このマグマイザー、どのような作品かと問われれば、MARVELとか、クリストファーノーランとか、そういうイメージが私にはある。
確固としてある。
それだけは荒れ狂う大海原のようにある。
物語のスケールはまさに「大河ドラマ」であり、決して低予算自主制作ドラマとして作ってはならない。(天啓がそう私に告げていた)
しかし一体どこの誰が、この世知辛いご時世に、たとえ千年に一度の企画とは言え、六億円もの予算を投じてくれるというのだろうか。
いかずちの如く現実を認識した私は、多摩川河川敷へと歩を向け初夏の日差しの中、天道虫と共に微睡むのであった。
■MAGMIZER PROJECT 003
マグマイザーの世界は私の中で膨張を続けていた。
多摩川河川敷の見事に刈り揃えられた芝生の大海を、ショウリョウバッタが飛んでいく。
ショウリョウ…精霊バッタか。
精霊。
精力。
AV男優は神雄であり精霊の使い。
マグマイザーは精霊の化身である。
精神伝説マグマイザー。
精神。精の神。
真熊烈は精の神となって、ホモ・サピエンスを救えるのか。
生命の根源となる力「精気」を巡る戦い―。
やはり私にはこの天啓を形にする責務がある。
どこかに、このプロジェクトに大予算を投じてくれる男はいないのか。
むしろ私が頼む前に察して「お金いらない?二十億くらい」と持ち掛けてくるような狂気と浪漫が横溢した人物はいないものか。
そのとき、第二の天啓とも言える閃き。スパーク。
ある人物「A氏」の名前が、電撃と共に脳裏をかすめた。
企画に対して持ち金を投資する…いわゆる「投資家」の、正に嚆矢的存在と言って良いだろう。
而も彼は、「AV男優」という題材とは密接な関わりを持つ一大企業の創始者ではないか。
彼なら。
あの「虎」なら。
この千年に一度の企画を見てもらうには、最もふさわしい相手に違いない。無論、私はA氏と話したこともなく、面識も絶無であるが、そこは持ち前の明るさでカバーするしかない。
■MAGMIZER PROJECT 004
あらゆる手を尽くし、私は遂に「虎」に企画を提案することに成功した。
結論から記す。
マグマイザーはこの世に生を受けた。
■MAGMIZER PROJECT 005
海外ドラマに比肩するスケールの、異能力ヒーロードラマ。
生命と万物の由来にまで及ぶ、空前絶後のクロニクル(with男優)。
これが私の描く『マグマイザー』の映像イメージである。
実現するためには、私の試算で少なくとも二億九千万ドルは必要。
この二億九千万ドルの中には、撮影時のケータリング、飲み物、コピー代、そしてファミレスでの打ち合わせ経費等も含まれている。
特に、極めて気難しい職人的スタッフ陣らによるデニーズでの打ち合わせは、「海外ドラマあるある」「AVあるある」「アメコミ映画あるある」「はじめて見たAVの思い出言い合い」「クリストファーノーランあるある」「思わず『おまえわかってるなあー!』と膝を叩きたくなる、AVのシチュエーションというかシーンあるある」「なつかしAV女優の名前言い合い」等によって連日深夜帯にまで及ぶことが予見される。
ファミレス代だけでも経費は途方もないことになろう。
私は再三にわたって試算した金額の妥当性と必要性を熱弁したが、その額を調達することは叶わなかった。
「残念ながら二億九千万ドルは出すことは出来ない」
しかし話はここで終わらなかった。
その代わりに、
予告編の制作資金を獲得することが出来たのである。
■MAGMIZER PROJECT 006
これ以上なく強力な理解者を得た。
そして先立つものとして「予告編」の制作資金を獲得できた。
これは、大いなる、と言うよりむしろ決定的な前進であると言える。
何故か。
ただでさえ人は観たものしか理解しない。
その上おそらく『マグマイザー』というプロジェクトは概要を聞いた多くの人がこう考える可能性が高い。
「下ネタ系ヒーローモノね」
「AV女優のおっぱいもみもみとか陰茎が勃起するでがんすとかそういうのでぐいぐい行く感じのあれね」
「samenで敵を倒すのだね」
致し方ないことである。
下ネタが無いとも言わない。
しかし、そうであって、そうではないのだ。
これまでになかったバランスのドラマになる。
私がどのような作品を思い描いているか。
それを人に伝えるには、もう映像を作ってしまうしか方法がない。
通常であれば本編を全て撮影したうえでその中から印象の強いカットや訴求力の高いカットを適宜並べ、エモーションを喚起する音楽をつける。というのが予告編の一般的な制作方法だが、それを大幅に逸脱した手法をとることになる。
まだ存在しない本編を存在するかの如く「ダイジェスト」し、そうして完成した予告編をもってして、「こういう感じになります。実際に本編を制作するには二億九千万ドル程度が必要です」とハリウッドに持ち込む寸法だ。
なかなかにロマンティックな計画ではないか。
スタートアップの為の資金は確保できた。
次は、この計画に賛同する命知らずの志士たちを集めなければならない。
■MAGMIZER PROJECT 007
私は日本中を駆け回り、「マグマイザープロジェクトで命を落としても構わん」という壮絶なる覚悟を持ったスタッフ達を揃えることに成功した。
ところで、主演はどうするか。
この骨太かつエモーショナルな物語において主人公・真熊烈を演じる俳優は、生半なことで選ぶことはできない。
私はプロデューサーを通じて、国内有数の芸能オフィス数か所に、国内有数の俳優を名指しで、オファーを試みた。
そしてその全てにおいて「すんまそん」的な返答を得ることになった。
その明快さとスピード感は心を奪われるほどで、幾つかの返答においては、「オファーする前に不承諾の返事が来ていたのではないか」と時空感覚が混乱させられるほどの鮮やかさだった。
彼らは早晩歯噛みすることになろう。
マグマイザーはいずれ日本を越えて世界を虜にする、超娯楽大作となる。
ハリウッドでのリメイクも、現時点で極めて濃厚であると言わざるを得ない可能性が存在する。
リメイクの際はジョゼフ・ゴードン=レヴィット乃至デイン・デハーンを真熊烈役にと考えている。(無論、徹底した役作り、体躯作りを条件とし、芝居は基本的に日本語以外では認めないつもりである。)
ジョゼフ・ゴードン=レヴィットやデイン・デハーンが演じる可能性が純粋数学的にはゼロとは言い切れない真熊烈の「オリジナル役」を辞んだ事実は、彼らの俳優人生最大の後悔となってしまうはずだ。
いずれにせよ、こうなると主演は彼しかあるまい。
極上一大絵巻『ギガゼウス』にて沢田康一役を演じきった、河野朝哉。
若かりし頃の私を思わせる、端正な顔立ちの青年だ。
しかし私が構想している真熊烈のキャラクターは
「予言に基づき山で修業を積んで育ち、初めて下界に下りてきた男」
であり、現状の河野くんとは些か趣が異なる。
「河野くん。真熊烈に成ってきてくれないか」
私の言葉に、彼は深く頷くと、交差点の雑踏へと消えて行った。
そして数か月…
想像を絶する肉体改造を経て、彼は、真熊烈として転生を完了させた。
■MAGMIZER PROJECT 008
本サイトをご覧になった数名の方から
「AV男優で変身する、という構図、意味が、徹頭徹尾、理解できない」
「本気なのか冗談なのか判断致しかねる」
との温かい指摘を頂いた。
読み返すと、確かに気持ちが昂ぶるあまり肝心なところが支離滅裂で伝えきれていない粗を感じた。
これをもって「何かの冗談に違いない」と判断されているとするなら不覚である。
ご説明になるよう、図表を作成してみたのでご覧いただければ幸いです。
(clickで拡大)
■MAGMIZER PROJECT 009
2016年4月5日(火)
超大型(予定)ドラマ『マグマイザー』実現に向け、徐々に体制が整ってゆく。
やるしかない。
誰に頼まれたわけでもないがやるしかないのだ。
これが失敗に終わるようならば、日本の映像文化に未来など無い。
その試金石となる予告編の品質を出来る限り高めることが、最初の課題となる。
時は遡るが、神雄との遭遇について記しておかねばなるまい。
このプロジェクトにあたり、私はまず三名の神雄に接触を試みた。
仔細を顕にすることは避けるが、私が接見した三名の神雄全員が、全身から信じがたい量のマグマ粒子を放っていたことだけはここに記録しておきたい。
湾岸でミサイルの雨を潜り抜けた私が、初対面時、彼らの想像を絶する「雄度」に暫し言葉を失うという場面があった。
「圧」「倒」「的」――
政治家。芸能人。フィクサー。五輪選手。格闘家。極道。
これまで数々の大物と呼ばれる人物と対面してきたが、そういった人々とはレベルが違う。世界が違う。生物として「違う」のだ。
人間が、これほどまでのマグマ粒子を帯びることが可能だとは、俄かには信じることが困難であった。
目の前に坐している者は、まさに神なる雄。
飛翔する孔雀を初めて見た中国人は幻獣「鳳凰」を見たというショックで絶命したというが私にも十分その危険があったと言えよう。
そんな神雄たちは、マグマイザーの概要を聞いて、こう仰ってくださった。
「うん…“イイ”ね…。とても“イイ”企画だ…」
「我々の力を、こういった形で世にお届けするのも、悪くないかもしれないね…」
「違いない…コフコフコフ…」
神雄たちの気孔から霧散するマグマ粒子はすでに溶岩の如く室内の至る所を溶かし始めている。
伏し目がちに微笑む彼らの姿の向こう側に、私は、半跏思惟像を見ていた。
■MAGMIZER PROJECT 010
2016年6月18日(土)
皆さまの多大なるご協力により、無事に『マグマイザ』ーの予告編を制作、公開することができました。
予告編のアドレスはこちらとなります。
https://www.youtube.com/watch?v=RBAkzeap7zs
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先日―。
多摩川河川敷を臨む岸辺に立ち、神雄の荒ぶるマグマ粒子の波動を思い出しながら、私は今當に、己が歴史の節目にいることを確信しました。
私は天啓を粛々と形にしているだけのことではあります。
正しく全うすれば、歴史は動くでしょう。
一方で、果たせなかった場合の私の罪科はベテルギュースよりも大きい―。
この動画のアドレス、またはマグマイザー公式サイト(http://magmizer.com)を、皆さまどうか、友人知人家族同僚恋人等々にお知らせください。
お手数をかけないよう文面を考えましたので、以下をコピペしていただければスムーズかと存じます。
<女性の方用>
(以下のテキストをコピペしてください)
ひさしぶり♪
めっちゃ突然だけどこの動画知ってる??
https://www.youtube.com/watch?v=RBAkzeap7zs
「マグマイザー」ってドラマらしいよ。
なんか、神雄(カミオス)ってゆー人たちが地球を救うんだってサ。
よくわかんないケド…。
とりあえず男の人に見せれば、わかるみたいだヨ。
[※御友人のボーイフレンドまたは旦那さまの御名前] さんとか、
[※御友人の男兄弟または父上の御名前] さんとかに、見せてみてネ。
フェイスブックもあるから「いいね」してみてね!
https://www.facebook.com/magmizer/
なんかごめんね、突然。
また〜〜〜☆
<男性の方用>
(以下のテキストをコピペしてください)
これを見てくれ。
https://www.youtube.com/watch?v=RBAkzeap7zs
じゃあの。
皆さま何卒宜しくお願い致します。